2025-04-15

次世代地上デジタル放送規格「地上放送高度化方式」が標準規格化

NHK放送技術研究所が中心となって研究開発を進めてきた次世代の地上テレビジョン放送方式(地上放送高度化方式)の標準規格が、2025年3月に一般社団法人電波産業会(ARIB)で承認された。

https://www.nhk.or.jp/strl/publica/giken_dayori/241/1.html

次世代地上デジタル放送では、3つの方式が規格化された:

  1. ISDB-T1.5(階層分割多重方式)- 既存のISDB-Tと同じ周波数に低電力階層として新信号を多重できる方式
  2. ISDB-T2(次世代方式)- LDPC+BCH符号を採用し、QPSK〜4096QAMといった変調方式をサポート
  3. ISDB-T3(地上放送高度化方式)- 将来的な主要方式として位置づけられる、ISDB-Tと大きく異なる本命方式

ISDB-T2は、従来の畳み込み+RS連接符号から、LDPC+BCHへ変更されている。変調方式もQPSK、16QAM、64QAM、256QAM、1024QAM、4096QAMをサポートし、情報伝送にはISDB-Tと同様にTLV方式が使われる。

階層分割多重方式(ISDB-T1.5)は、ISDB-T2をノイズとして低電力階層に配置し、ISDB-T(高電力階層)に加算することで、既存の周波数と共存できる方式だ。実用化すると低電力階層は利用可能なビットレートが制限され画質が劣化する一方、高電力階層のビットレートも減少し所要CNRが上昇するため、既存放送の視聴エリアも影響を受ける可能性がある。

4096QAMという高次変調方式は実用上の懸念もある。これはケーブルテレビなど理想的な環境下でも挑戦的な変調方式であり、地上波放送という電波環境の厳しい媒体で実用化できるかは疑問視する声もある。

VVCコーデックの採用も視野に入れられているが、コーデックの圧縮効率と処理負荷のバランスをどう取るかが今後の課題になるだろう。

規格化されたものの、実用化には多くの課題が指摘されている:

  • BS4K放送の普及が限定的である状況での地上波4K/8Kの展望
  • 受信機の買い替えが必要となる「地デジカ2」への懸念
  • 全国の中継局への対応コストと普及の見通し
  • 録画環境への影響

専門家からは「技術的ハードルが解決されないまま、とりあえず全方式を規格化した」という見方もある。一方で、政治的な要素も絡んでいるという指摘もあり、過去の地デジ移行時のようなチューナー配布などの措置が取られる可能性も示唆されている。

総務省関連の省令改正は2024年5月23日付け官報に掲載され、関連省令も公開されている。

https://www.kanpo.go.jp/old/20240523/20240523g00122/20240523g00122full00010118f.html
https://www.soumu.go.jp/main_content/000947454.pdf

またNHKプラスなどのインターネット配信についても、より低遅延な配信を実現するLow Latency CMAF(CMAF-ULL)やMPEG-DASHへの移行も検討されている可能性があり、CDNエッジでの処理によるクラウドベースリニア配信システムの研究も進められている。

https://www.nhk.or.jp/strl/publica/rd/200/4.html

CMAF-ULLはHTTP Chunked Encodingを使用して、チャンクごとにデータを送信することで、従来のHLSやDASHよりも低遅延な配信を実現できる。CDNエッジでLLCMFとして処理することで、さらに高速な配信が期待できる。

地上波放送の高度化と並行して、インターネット配信の低遅延化も進んでいくことになるだろう。今後も放送・通信融合の流れに注目していきたい。