地上波デジタル高度化とIPDC、電波の帯域の有効活用について
現在、日本の地上デジタルテレビ放送ではISDB-T方式が採用されています。ISDB-Tは、OFDMと時間インターリーブを組み合わせたセグメントOFDM伝送方式を採用し、マルチパス耐性に優れ、移動受信にも対応可能という特長を持っています。変調方式には64QAMが用いられ、誤り訂正にはリードソロモン符号と畳み込み符号の連接符号が採用されています。また、1チャンネルを13個のセグメントに分割し、それぞれのセグメントに異なる伝送パラメータを適用できるため、固定受信と移動受信を組み合わせた柔軟なサービス提供が可能となっています。
一方、4K・8K放送など、より高度な放送サービスを実現するために、ISDB-Tのさらなる高度化が求められています。そこで検討が進められているのが「地上放送高度化方式」です。この方式では、現行のISDB-Tの長所を継承しつつ、最新の伝送技術を導入することで、大幅な性能向上を目指しています。
地上放送高度化方式では、誤り訂正方式にLDPC符号を採用し、変調方式に4096QAMなどの高次の多値変調を用いることで、伝送容量を拡大します。また、現行の13セグメント構成を35セグメント構成に拡張することで、帯域幅を5.57MHzから5.83MHzへと拡大。これにより、4K放送を1〜2番組、あるいはHD放送を最大6番組伝送できるようになります。
さらに、地上放送高度化方式では、映像符号化方式にVVCを採用することが検討されています。VVCは、HEVCの後継となる次世代の映像符号化方式であり、同等の画質でHEVCの約50%のビットレートを実現可能です。音声符号化にはMPEG-H 3D Audioの採用が想定されており、22.2chの立体音響を効率的に符号化できます。
また、多重化方式としてMMTを採用し、放送とブロードバンドの連携を考慮した設計となっています。MMTは放送経路でのメディア伝送を担い、通信経路ではDASH/CMAFによる配信が想定されています。放送と通信で異なる伝送方式を用いつつも、映像コーデック(VVC等)やコンテナフォーマット(ISOBMFF)を共通化することで、コンテンツの相互運用性を確保する設計となっています。
一方、現行のISDB-Tと地上放送高度化を共存させるために、LDMの採用も検討されています。LDMは、異なる電力の信号を同一チャンネルに多重する技術で、現行のISDB-T信号をULに、高度化信号をLLに割り当てて伝送します。ULは現行受信機でそのまま受信可能であり、LLは新たな高度化対応受信機で受信されます。これにより、現行サービスを維持しつつ、スムーズな移行が可能となります。
そして、電波の有効活用という観点からは、IPDCにも注目が集まっています。IPDCは、IPパケットをデジタル放送の電波に重畳して配信する技術であり、放送波を使って多様なサービスを提供することが可能です。
技術的には、IPDCはISDB-Tの信号の一部に割り当てられたデータ領域にIPパケットを挿入する形で実装されます。具体的なデータ構造としては、MPEG-2 TSのペイロード部分にIPパケットを格納する方式が用いられています。
例えば、IPDCで伝送するデータがあるTS(トランスポートストリーム)のPIDを0x0020とし、そのペイロードにUDPデータグラムを格納するとします。UDPデータグラムには、IPアドレスやポート番号、データ長などが含まれ、その後ろにIPDC独自のデータが続きます。そのデータの中身は、例えば震度や避難情報などの防災情報であったり、あるいは交通情報やニュース速報だったりと、様々なものが考えられます。受信機側では、PID 0x0020のパケットを抽出し、順次UDPデータグラムを取り出すことで、アプリケーション層のデータを再生することになります。
このように、IPDC技術を活用することで、放送波というインフラを最大限に生かしつつ、より多彩な情報サービスを提供することが可能となります。特に災害時など、通信インフラが途絶した状況下でも、放送波を介して重要な情報を届けることができるのは大きな利点です。今後、IPDCの活用が進むことで、地上波の可能性はさらに広がっていくでしょう。